市民団体等の意見

アピール

教科書検定・採択制度を考える県民の集い 参加者一同 2010年2月10日

 09年8月、横浜市教育委員会は、10年度から使用する中学校教科書で、「新しい歴史教科書をつくる会」主導の「自由社版」歴史教科書を、市内8区において採択しました。

 教育委員長は、「日本人に生まれたことを悲しませるような歴史教科書はダメだ」「日露戦争など、かなり愛情をもった記述がある」「教育基本法が改正され、教育を取り巻く環境が変わった」と述べています。いわゆる「愛国心条項」を指しているのでしょうが、「改正」教育基本法の「わが国と郷土を追いするとともに」の次には「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」が続きます。中国・韓国などアジア諸国の各方面から、「人権を軽視し、アジア太平洋戦争において日本が行った侵略・植民地政策を肯定し、戦争責任を否定した記述である」と批判される教科書が「他国を尊重する態度を養う」ものだとは到底思えません。

 委員会では、「内容については検定を通っているので信頼してよい」「試してもいいのではないか」など歴史観や記述内容に触れる議論もなく、採択は無記名投票で行われました。しかも、横浜市教科書取扱審議会の答申では、自由社が全く推薦されていない2区においても採択されるという、答申を全く考慮しない決定でした。教育委員長は「議会の同意を得て選ばれた我々に権限が与えられているんだから仕方ない。そういう仕組みになっている」と発言しています。

 今の横浜市教育委員会の在り方を大変危惧している私たちは、教科書採択のやり直し等を求める署名活動を展開し5万7千筆を超える署名を集約しました。そして2月2日、横浜市教育委員会に署名を提出するとともに、公平・公正・透明性が確保された教科書採択がなされるよう申し入れました。

 国際都市横浜は、グローバルな視野でものごとを考えることを基本に発展してきました。子どもたちの教育も同じです。歴史のグローバル・スタンダードを学ばずに、自国の歴史を身勝手に解釈することは、世界を舞台に活躍するであろう横浜の子どもたちの将来を阻害することになります。今回の教科書採択が、横浜に育つ子どもたちのことを第一に考えて、慎重に行われたとは思えません。

 また、採択区も全市1区に変更しました。次の教科書採択は、小学校が10年度、中学校は11年度に行われます。審議会答申を全く考慮しない教育委員によって、横浜市立全小中学校約27万人の子どもたちが使い教科書が、今回のように採択されることは断じて許すことができません。

 私たちは、横浜市及び横浜市教育委員会に、これからも次のことを強く訴えていきます。

 1.中学校歴史教科書採択のやり直しを求めます。

 2.教科書採択地区の現行18地区から1地区への変更の見直しを求めます。

 3.現場教職員の意見が反映された教科書採択制度を求めます。

2010年2月10日
教科書検定・採択制度を考える県民の集い
参加者一同


抗議声明

自由社採択&1採択地区撤回を求める11・12市民の集い 参加者一同 2009年11月12日

神奈川県教育委員会
教育委員長 平出 彦仁 様

抗議声明

 2009年10月15日、神奈川県教育委員会は、行政区ごとに18区に設定されている横浜市の教科書採択地区を1地区に変更するよう求める横浜市教育委員会の要望を、4対2の賛成多数で承認しました。

 市内1地区化への変更は、教育委員全員が横浜市教育委員会が提出した変更理由に納得していないにもかかわらず、全会一致ではなく多数決という異例な形によって反対意見を封じて決定されました。

 しかもこの変更は、政令市は複数の採択地区とするよう求めた無償措置法16条や採択地区の小規模化・適正規模化を求める閣議決定を真っ向から否定するものです。全国で最大規模の児童・生徒数を擁する横浜市は、これらの規定の適用が最も必要とされる市であり、現在の18採択地区設定は望ましい形態でした。政令市が規模拡大の変更をしたのは初めてであり(合併による場合を除く)、小規模化に取り組んできた他の市町村への影響も懸念されます。

 横浜市内1採択地区化によって、市内の地域や学校の実情を考慮した採択は不可能となり、巨大化した教科書市場は過当な営業活動や不当な働きかけを招きかねません。

 また、横浜市教育委員会が挙げた変更理由は、小中一貫教育や転居、教材研究などですが、いずれも利便性の域を出ず、18採択地区のままでも可能な内容ばかりです。

 これらの地区拡大化の問題点や現行制度内での工夫については、市民からの請願で指摘されていたものの、審議では触れられませんでした。

 貴教育委員会が、市教育委員会の熱心さなど極めて情緒的な理由だけで、立法趣旨に背き現行制度を骨抜きにする行為を認めてしまったことは、教育行政の指導機関としてあってはならないことです。法の趣旨に反する行為であっても、情緒的理由しかなくても、違法でさえなければ強行しても良いということになるからです。

 このような極めて不適切な決定の結果、子どもたちが画一的な教育のもとに置かれることに私たちは強い憤りを感じています。

 私たちは、今回の決定に強く抗議し、18採択地区に戻すことを求めます。

「戦争賛美、偏った歴史観のこんな教科書はいらない
―自由社採択&1採択地区撤回を求める11・12市民の集い―」
参加者一同


横浜市教育委員会
教育委員長 今田 忠彦 様

抗議声明 

 教科書は、戦前の国定教科書が国民を侵略戦争に駆り立てる役割を果たした反省から、多様な発行者の中から子どもや学校・地域の実情を考慮して、適切な1種類を使うという考え方のもとに選ばれています。現在横浜市は、行政区ごとに18の採択地区が設定されていますが、横浜市教育委員会はこれを1地区に統合して、市内全域で同一の教科書を使うことを要望し、神奈川県教育委員会はこの要望を承認しました。

 しかしこの地区変更は、極めて不適切な行為であると言わざるをえません。

 「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」では、政令市は採択地区を「区または区を合わせた区域に設定しなければならない」との規定があります。さらに日本政府も、行政改革委員会の意見を受けて、将来的には学校単位の採択が望ましく、採択地区の小規模化に取り組むよう求める閣議決定を出し続けています。横浜市の1採択地区化は、小中一貫教育や転居、教材研究の利便性を理由にしていますが、いずれも現行18地区のままでも可能なことであり、これらの法や国の方針に逆行してまで強行することではありません。教育委員会における審議も極めて杜撰であり、県教育委員のだれも納得しておらず、審議や理由書への批判さえ出されました。 18採択地区は現行制度上では望ましい形態でしたが、全国1の巨大採択地区出現で、子どもたちは、地域の実情が無視された一括りで選定された教科書で学ばされることになります。また、教科書会社の激しい営業競争や採択への不当な働きかけも招きかねません。

 私たちは、今回の採択地区変更に強く抗議し、早急に18採択地区に戻し、子ども・学校・地域の実情を反映した採択制度にするよう求めます。

 さらに、8月4日に行われた教科書採択について、教育委員の無記名投票用紙が公開されました。これによって、審議での発言とは裏腹に、自ら設置し諮問した教科書取扱審議会の答申内容をほとんど無視していたことが判明しました。

 採択後の市議会での質問や教育委員会に寄せられた市民の要望等への回答で、教育委員会は「公正・適正に採択した」としか答えていません。歴史教科書の採択についてだけは、無記名投票を実施することによって、自ら手続きの透明性を隠ぺいし、様々な疑問点や疑惑情報についても、説明責任を果たしていません。これでは、市民の疑惑は募るばかりです。

 今回の歴史教科書採択は、極めて不適切な手続きのなかで行われました。歴史教科書の採択に抗議するとともに、公正が確保される状態のもとで採択をやり直すことを求めます。

以上

「戦争賛美、偏った歴史観のこんな教科書はいらない
―自由社採択&1採択地区撤回を求める11・12市民の集い―」
参加者一同


横浜市教育委員会の自由社教科書採択の撤回を求める決議

かながわ歴史教育を考える市民の会 総会参加者一同 2009年9月18日

 横浜市教育委員会は2009年8月4日、2010−2011年度使用歴史教科書として、自由社の教科書を市内18採択地区中8地区で採択することを決定した。

 私たちはこの暴挙に怒りを込めて抗議し、採択の撤回・やり直しを要求する


 自由社版教科書は、国内だけでなく海外からも繰り返し批判されてきた扶桑社版教科書とほとんど同じ内容の教科書である。しかも、自由社版は扶桑社版の問題点をそのまま引き継いでいるだけでなく、戦争の美化・正当化がより強調されている。

 この教科書は、古代史においての伝承を史実と混同させるように扱い、日本の歴史を天皇中心のように描いている。また、近現代史においては、日本の植民地支配や侵略戦争を正当化・美化する一方、日本による戦争の加害や被害についてはほとんど記載していない。戦争そのものを正当化し、日本国憲法を敵視する内容である。このような歪曲した歴史を子どもたちに刷り込むことによって、子どもたちを「戦争をする国」の忠実な国民に育てることを狙いとする教科書といわざるを得ない。

 さらに、自由社版教科書については、多くの誤りや国際常識に反する記述があることが指摘されている。体裁についても、脚注の文字の小ささや、斜体、地色上の文字の読みにくさなど、自由社版は教科書としての基本的な条件を欠いている。

 自由社に対しては、「新しい歴史教科書をつくる会」と扶桑社により、公正取引委員会に独占禁止法第2条第9条項および第19条に基づく「申告(告発)」が提出されており、教科書採択の公正確保の面でも問題のある教科書である。


 横浜市教育委員会の採択審議・手続きについては、結果的に自ら諮問した教科書取扱審議会の答申内容を無視していること、従来公開審議であったものをなんの理由もなく歴史教科のみ無記名投票を行ったこと、採択結果を先取りする内容の疑惑情報が事前に流れていたことなど、多くの問題点・疑問点があった。


 全国一の都市規模であり、国際都市である横浜市が、このような自由社版教科書の問題点を考慮することなく、また不明瞭な手続きによって採択を決めたことに対しては、国内だけでなく、アジア近隣諸国からも厳しい批判が寄せられている。

 われわれ総会参加者は、横浜市教育委員会が、審議会答申を尊重することなく教育委員の恣意的判断を優先し、開かれた採択に逆行する「無記名投票」によって、多くの問題点を指摘されている自由社版歴史教科書を採択した暴挙に対し、強く抗議する。

 われわれは、横浜市教育委員会がただちにこの採択を撤回するとともに、あらためて十分な調査研究に基づいて採択をやり直すよう要求する。

以上

“「新しい歴史教科書をつくる会」と扶桑社により”は、
“「新しい歴史教科書をつくる会」と扶桑社とともに”
誤りであると思われる。


横浜市教育委員会の歴史教科書採択のやり直しを求める要請

「日の丸・君が代」強制反対・神奈川こころの自由裁判をすすめる会 2009年8月20日

 横浜市教育委員会は、8月4日、歴史教科書として8地区に自由社発行のものを採択しました。

 自由社版の歴史教科書は、戦争を美化し、歴史の真実を歪め、子ども達の真実を知る権利を侵すものです。「日の丸・君が代」の強制と同様に、歴史教育において、誤った一方的な観念や理論を生徒に押しつけることは許されず、容認することは出来ません。

 今回の採択は、横浜市民の世論や良識に背を向け、そして学校現場の要望を無視したものです。

 私たちは、採択のやり直しを強く要請します。


横浜市教育委員会の自由社版教科書採択に対する抗議

自治労横浜市従業員労働組合 中央執行委員長 黒沢 一夫 2009年8月18日

横浜市教育委員会委員長 今田 忠彦 様

      同     田村 幸久 様

 貴教育委員会は8月4日、「新しい歴史教科書をつくる会」が主導する自由社の歴史教科書(「新編 新しい歴史教科書」)を市内18区のうち8区で採択しました(2010・2011年度に計71校の中学1年生が歴史の授業で使用)。「自由社版」教科書は、516か所にもおよぶ欠陥が指摘されいったん不合格になったものを修正・再申請し、136か所の意見がつけられたものです。単純な誤記・誤植や年号の誤り、事実誤認が数多く、信頼性にかけるとともに、太平洋戦争を「大東亜戦争(太平洋戦争)」と記述し、日本軍を解放軍として迎えたインドネシアの人々を大きく取り上げるなど「自虐的な歴史観を払拭する」ことを主眼に、神話や天皇にかかわる古代史と近現代史に多くのページを割いています。アジア諸国からは「人権を軽視し、アジア太平洋において日本が行った侵略・植民地政策を肯定し、戦争責任を否定した記述」だと批判されているものです。

 貴教育委の採択は、全ての教科書を見比べてどの教科書が最良かを決定する方法ではなく、他の教科書と今年度検定を合格した「つくる会」教科書を比べて「無記名投票」するという、開かれた採択に逆行する不公正なものでした。そもそも、歴史教科書であるにもかかわらず、貫く歴史観や記述内容に触れた議論はなく、現場の教職員の意向も全く考慮されず、300を越すといわれる請願・要望についても十分議論をしていません。

 貴教育委員会は、来年度から採択地区を1地区に統合する方針も決めており、今後全市での「つくる会」教科書導入を目論んでいることから、「先に結論ありき」の教育委員会主導の今回「採択」は、絶対に看過できないものです。

 2009年8月4日に貴教育委員会が行った、10〜11年度使用中学校教科書採択は、自由社版「新編 新しい歴史教科書」を特化するもので不公正です。なぜ自由社に変更するのか、教科書の記述内容についての議論もなく、無責任な無記名投票で行ったことに強く抗議します。自由社版教科書の歴史観は、戦前の教育が侵略戦争遂行に利用されてきたことへの反省から科学的に明らかにされた史実を重視してきた歴史教育と、「村山首相談話」が示す日本政府の公式見解を真っ向から否定するものです。貴教育委員会は、現場の教員をはじめとする教育関係者、保護者、市民の意見を十分踏まえて、教科書を採択し直してください。

以上


横浜市教育委員会の「中学校歴史教科書採択」に関する神高教見解

神奈川県高等学校教職員組合 2009年8月11日

 8月4日、横浜市教育委員会において2010・2011年度に使用される中学校教科書の採択が行われ、市内18の採択区のうち8区で「新しい歴史教科書をつくる会」が編集した自由社版歴史教科書が採択された。

 まず今回の教科書採択は、以下のような点において、きわめて不公正で問題の多い採択と言わざるをえない。

(1)教育委員6人の無記名投票で採択が行われたこと。従来公開されてきた採択が無記名投票とされ、どの委員がどのような理由で投票したのか明らかにされないまま、教科書が決定された。

(2)他教科では「教科書取扱審議会」の答申に沿って、現在使用中の教科書が採択されたにもかかわらず、歴史教科書のみが答申を無視して採択されたこと。

(3)歴史教科書の採択候補は7社あったにもかかわらず、自由社版のみを現在各区で使用中の2社と比べて、採択していったこと。

 教科書は、教職員や保護者・地域住民の意見が十分に反映された公正・透明な「開かれた」システムにおいて採択されるべきである。しかしながら横浜市教育委員会は、あえて公開の方針を逆行させ、歴史教科書のみ審議会答申を無視して自由社版に変更した。 また、2011年度には新学習指導要領に準拠した新しい教科書の採択が行われるため、指導要領の移行にともなう今回のような採択においては、現在使用中の教科書が継続使用されるのが通常である。にもかかわらず横浜市教委は、版元が扶桑社から自由社に変わっただけの「つくる会」教科書を「新規参入」と位置づけ、恣意的な方法で自由社版教科書を採択した。

 今回の採択が、一部教育委員の露骨で極端な政治性の結果であることは明らかである。 「つくる会」の歴史教科書は、アジア諸地域に対する日本の侵略を、欧米帝国主義からアジアを「解放」するための戦争と位置づけている。日本の植民地支配や軍政を肯定的に扱い、アジア・太平洋戦争を「大東亜戦争」とよぶなど、近代日本の戦争を正当化する記述が随所でなされている。また、前近代においても「天皇神話」を歴史的事実と混同させるような構成をとるなど、多くの教職員や保護者がもとめる「たしかな歴史認識」とは大きくかけ離れた内容になっている。

 横浜市教委は来年度以降、採択区を市内全域で単一にすることを方針化しており、私たちは、歴史的事実を歪曲し、国際社会の常識に反した教科書が、横浜の子どもたちに押しつけられる事態を強く危惧する。

 私たちは、歴史的事実に基づく教育実践にいっそうとりくむ決意をあらたにするとともに、横浜市が学校現場や市民の声に耳を傾け、公正・透明な採択制度のもと、国際社会を生きる子どもたちにとって真にふさわしい歴史教科書を検討すること、真摯に過去と向き合える歴史教科書を採択することをもとめていく。


2010・2011年度使用中学校用歴史教科書採択に関する抗議文

石川県平和運動センター 代表 柚木 光 2009年8月11日

横浜市教育委員会 様

 横浜市教育委員会は8月4日、教育委員会を開催し2010・2011年度使用中学校用歴史教科書について、18採択地域のうち8地域で「新しい歴史教科書をつくる会」が編集した自由社版「新編 新しい歴史教科書」(以下「つくる会」教科書)を採択しました。同社の教科書採択は全国初とのことです。石川県平和運動センターは、横浜市教育委員会の今回の教科書採択に強く抗議します。

 この「つくる会」教科書は、日清・日露戦争以降1945年8月の敗戦まで続く日本の侵略戦争を、日本の防衛にとって避けられないものであり帝国主義侵略からアジアを開放した聖戦であるとの立場を明確にしてきました。この歴史観は、「村山首相談話」で示された、過去日本が行った戦争を真摯に反省し新しいアジア諸国との友好関係を築こうとする日本政府の公式見解とは大きく異なることは明らかです。歴史のグローバル・スタンダードを学ばずに、自国の歴史を身勝手に解釈する事は、世界を舞台に活躍するであろう横浜市の子どもたちの将来を阻害する要因になるに違いありません。8月4日の教育委員会では、歴史教科書であるにもかかわらず、そこに貫かれる歴史観や記述内容に触れた議論はありませんでした。子どもたちの将来を左右する教科書採択が慎重に行われたとは到底思われません。

 また、今回の教科書採択は、全ての教科書を見比べてどの教科書が最良かを決定する方法ではなく、他の教科書と今年度検定を合格した「つくる会」教科書を比べてどちらがふさわしいかを決定する方法で採択されました。このような方法は、極めて不公正な問題の多いものです。また、議論を見る限り、採択の票を投じた委員の方々に対して、教育現場で教科書を使う教員や保護者の方々の意見がとどいているとも思われません。教科書採択のあり方や手続きも大いに問題ありと言わざるをえません。

 横浜市は国内最大の都市として、地方分権時代にリーダーシップを発揮しておられるだけでなく、今年で開港150年をむかえる世界に開かれた国際港湾都市として、国内外に大きな影響力をもつ都市だと私どもは思っております。その横浜市の教育委員会が、このような杜撰といわざるをえない教科書採択手続きを経て、正しい歴史認識と史実に基づく歴史を学ぶ姿勢を放棄する決定をされたことに石川県平和運動センターは驚き、そして怒りを禁じ得ません。全国の教育に対する影響も大いに危惧するものです。横浜市教育委員会は、全ての歴史教科書をもう一度検討し直し、子どもたちの将来のために教科書採択をやり直すことを強く要求します。


横浜市教育委員会による「新しい歴史教科書をつくる会」自由社版の歴史教科書の採択に抗議し、採択の撤回を要求する (声明)


教科書・市民フォーラム 代表世話人 高嶋伸欣・柴田健 2009年8月10日

 横浜市教育委員会は、さる8月4日、「新しい歴史教科書をつくる会(つくる会)」編集の自由社版歴史教科書を市内18採択地区中8地区(港南・旭・金沢・港北・緑・青葉・都築・瀬谷、145校中71校)に採択した。私たちは生徒・現場教師や市民の声を無視したこの暴挙に対し怒りを込めて抗議し、採択の無効・撤回・やり直しを要求する。


 現在、「つくる会」の歴史教科書は、会の内紛により扶桑社版と自由社版の2種類が発行されているが、その内容はほぼ同一で、現在著作権をめぐって係争中である。このような問題を抱えている教科書を敢えて採択し、生徒に供するのは、教育行政として無責任極まりない。

 しかも、これら「つくる会」の歴史教科書は、国民主権の憲法下で天皇中心の歴史像を強調し、日本の植民地支配や侵略戦争の本質から目をそらして正当化・美化し、生徒たちに保障されるべき基本的人権や恒久平和主義、国民主権を軽視して軍事力を重視している。また、現実追認型で、声をあげて意見表明する姿勢が育たない「物言わぬ市民」を育成しようとするものである。


 8月4日に開催された教育委員会では、「調査結果を重視する」との声が教育委員からあがりながらも、それらが無視されて、決められていった。さらに、今回の採決では、「横浜市教科書採択基本方針」に新たに全面改訂された教育基本法の趣旨に合致していることを加筆したにもかかわらず、自由社版以外の歴史教科書については、4年前の旧基本方針下での調査資料を流用して審議するという、不公平かつ不公正な手順で進められた。これは明らかに採択手続きの規定に反し、違法である。

 また、今回の採決は無記名投票で行われた。横浜市の教科書審議・採択は、従来から公開で行われ、なんら支障はなかったはずである。にもかかわらず、あえて無記名投票に持ち込むことは、公職である教育委員の責任を不明確にし、情報公開、「開かれた採択」に逆行する行為である。

 このようなやり方は生徒が使う教科書の決め方としてふさわしくない。横浜市はコンプライアンス(法令遵守)を重視する。この教育委員会の決め方は、それに違反したとして是正されなければ、市民に対する重大な信用失墜行為である。直ちに是正されなければならないし、今田教育委員長はその職を続けるべきではない。


 また今田教育委員長は自由社版教科書について、「日露戦争の記述では愛情を持った表現が多かった」と発言したと報じられている。このような意味不明な、また一方的な見解が教科書採択の主な要因にされた点は、見過ごせない。日露戦争の「勝利」は一時的にアジアの人々に希望を与えたものの、その後の「脱亜入欧」的政策が、多くのアジアの人々に裏切りと見なされ、怒りと失望を覚えさせた史実を忘れている。この史実が他社の教科書には明記されている。とても教科書採択に権限を持つ人物の発言とは思えず、この教育委員長と自由社版教科書がアジアを蔑視し、アジアの人々の懸念を無視する共通性を持つことが見えてくる。国連ピースメッセンジャー都市であり、多くの民族が共生している横浜市においてこのような暴挙が行われたことは、これまでの市民の努力を踏みにじり、そして共生を妨げる恐るべき人権侵害にもつながることに気づくべき である。何よりも生徒たちの教育の場にこのような教科書を無理やり持ち込もうとすることに怒りを禁じえない。

 さらに自由社版教科書は、扶桑社版から急いで起こしたような製版で、これまでの間違いに加えて、新たな不適切な内容や誤字誤植がまだまだ多数ある「似せブランド品」ともいうべき欠陥商品である。これで検定を合格させた文部科学省の責任にも重大なものがある。


 とりわけ、扶桑社版の沖縄戦記述「4月、アメリカ軍は沖縄本島に上陸し」に続けて、自由社版では「ついに陸上の戦いも日本国土に及んだ」と加筆し、それがそのまま検定で認められたのは、重大な事実誤認記述であり、看過できない。第1に、国土での陸上戦は、同年2月に始まった硫黄島(東京都小笠原諸島)の地上戦が最初であり、沖縄戦ではない。第2に、沖縄の地上戦は、本島上陸以前の3月26日に慶良間諸島への米軍上陸から始まっている。しかも、慶良間諸島では、この時「集団自決」事件が起きた。この「集団自決」に対する日本軍の強制を否定した2006年度高校「日本史」教科書検定に対し、沖縄県民を中心とする厳しい抗議を受けて、07年12月に文部科学省は、記述の再修正を認めた経緯がある。この「集団自決」の存在そのものを無視した記述を、07年次と同じ顔ぶれの検定官および検定審議会委員たちが誰一人として気づかずにいたとは、考えられない。「集団自決」そのものだけではなく、07年の沖縄県民の抗議等も存在しなかったかの如く、中学生に学習させようとしている点で、自由社版教科書は最悪のものである。同書を採択したことは、沖縄の人々に対する重大な背信行為である。

 このように、自由社の教科書では中学生の段階で、沖縄戦について誤った学習をさせられることになる。神奈川県では、高校の修学旅行で、沖縄に行き平和学習を実施している学校が多いことが知られている。中学段階でも、沖縄戦の史実を正しく学習できるようにしておくことは、教育委員会の責務であるはずだ。


 かつてこの横浜で提訴した高嶋(横浜)教科書訴訟を担ってきたわれわれとしては、以前から指摘してきた文部科学省の恣意的な教科書検定の問題点を目の当たりにして、このような杜撰な教科書検定なら不要であるとの指摘も改めてしておきたい。しかも、そうした誤りを指摘されていながら「検定に合格している」として、それらを一切不問とした8月4日の横浜市教育委員会審議は、容認できない。

 その文部科学省でさえ、「21世紀の教科書は思考力育成を重視して、すぐ答えや結論のみつかるものにしないこと」と通知しているが、教育委員会では「自由社版は問いの答えがすぐ書いてあって、予習・復習に適している」というレベルの低い議論に終始したことも問題である。

 また今回の採択には疑惑の声を聞く。横浜市教育委員会の今田忠彦委員長と藤岡信勝「つくる会」会長が何回も会い、自由社採択の内諾を得ているという情報が事前に流れ、教育委員会にも知らされていたという。このような疑惑が生じる教育委員長が教育行政のトップに君臨していることは、現場教師や市民無視の「教育改革」を進める横浜市の問題点を如実に示している。また教科書執筆者と採択者が接触することは独占禁止法に違反し、文部科学省の指導にも反している。 今回の採択は不公正・不正な犯罪的行為といえる。またやはり市民および現場教師等の声を聞かずにトップダウン型で横浜の教育をかき回してきた中田宏横浜市長の任命責任も当然問われるべきである。


 生徒たちの教育に責任を負う教育委員会が、政治的で乱暴なやり方で「つくる会」教科書自由社版を採択したことは、大人として極めて恥ずべき行為である。私たちはこの暴挙に対し、断固として抗議するとともに、採択の無効・撤回・やり直しを要求するものである。

以上


横浜市教育委員会による「新しい歴史教科書をつくる会」主導の中学校歴史教科書(自由社版)採択に対する書記長談話


日本教職員組合 書記長 岡本 泰良 2009年8月5日

 8月4日、横浜市教育委員会において、2010年から使用される中学校教科書採択で、「新しい歴史教科書をつくる会」主導によって編集された自由社版歴史教科書が決定されたことが報道された。この教科書は、「人権を軽視し、アジア太平洋戦争において日本が行った侵略・植民地政策を肯定し、戦争責任を否定した記述である」として、中国・韓国などアジア諸国の各方面からも批判の声があがっている。また、検定においても誤記・誤植や年号の誤りを含め、事実誤認の箇所が多くあることが指摘された。

 報道では、横浜市教科書採択は、校長や学識経験者で組織する教科書取扱審議会が教科書候補を答申し、その提案をもとに市内18区の区ごとに採択され、無記名投票の結果8区で自由社版が決定されたという。教職員や保護者・地域住民の意見反映を軽視し、教育委員会の一方的な方法により教科書採択が行われたことは、極めて問題である。

 日教組は、教科書採択については、「適正かつ公正な採択を確保しつつ、学校教育の自主性、多様性を確保することの重要性を踏まえて将来的には、学校単位での教科書採択の可能性も視野に入れて」とした09年3月の閣議決定に沿った採択制度の改善や教科書調査研究の条件整備を求めてきた。子どもたちが使用する教科書は、密室で決定されるのではなく、教職員や保護者・地域住民の意見が十分に反映された公正・透明な「より開かれた」採択システムにおいて採択されることが重要である。そのためには、採択の調査表(選定委員会、選定審議会、教育委員会の文書)の情報公開は当然であり、教育行政には、教科書調査研究の条件整備、採択過程における情報公開の一層の推進が求められている。

 21世紀の国際社会で生きていく子どもたちにとって、歴史を正しく認識することは大変重要なことであり、憲法、子どもの権利条約、女性差別撤廃条約、人種差別撤廃条約などを遵守した教科書、アジア諸国をはじめ、世界の平和、共生社会の実現をめざす実践力を育む内容豊かな教科書の採択が望まれる。

 私たちは、一人ひとりの子どもたちが平和な未来に向かって歩むために子どもたちにゆたかな学びを保障することが重要である。そして、共生の社会を実現する主権者を育む教育実践にいっそうとりくんでいく。


横浜市教育委員会への2010・2011年度使用中学校用歴史教科書採択に関する抗議声明

フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム) 事務局長 福山 真劫 2009年8月5日

横浜市教育委員会様

 平和フォーラムは、7月29日、文書でもって申し入れを行い、全ての教育に関係する方々に対して、2010・2011年度の教科書採択に際しては「つくる会」「つくる会」教科書が主張する根拠ない歴史観を否定し、子どもたちが科学的な歴史事実に基づく正しい歴史認識を共有し、平和・友好の国際理解に立って日本の将来を担うことの出来るように、良識ある採択を強く要請してきました。しかし、横浜市教育委員会は8月4日、教育委員会を開催し2010・2011年度使用中学校用歴史教科書に18採択地域のうち8地域において、「新しい歴史教科書をつくる会」が編集した自由社版「新編 新しい歴史教科書」(以下「つくる会」教科書)を採択しました。

 平和フォーラムは、横浜市の教育に対して大きな危惧を感じるとともに、教科書採択のあり方に強く抗議するものです。

 教育委員会では、歴史教科書であるにもかかわらず、貫く歴史観や記述内容に触れた議論はありませんでした。この「つくる会」教科書は、日清・日露戦争以降1945年8月の敗戦まで続く日本の侵略戦を、日本の防衛にとって避けられないものであり帝国主義侵略からアジアを開放した聖戦であるとの立場を明確にしてきました。この歴史観は、「村山首相談話」で示された、過去日本が行った戦争を真摯に反省し新しいアジア諸国との友好関係を築こうとする日本政府の公式見解とは、大きく異なることは明らかです。歴史のグローバル・スタンダードを学ばずに、自国の歴史を身勝手に解釈する事は、世界を舞台に活躍するであろう横浜市の子どもたちの将来を阻害する要因になるに違いありません。子どもたちの将来を左右する教科書採択が慎重に行われたとは感じられません。

 また、この教科書採択が、全ての教科書を見比べてどの教科書が最良かを決定する方法ではなく、他の教科書と今年度検定を合格した「つくる会」教科書を比べてどちらがふさわしいかを決定する方法で採択されました。このような方法は、極めて不公正な問題の多いものです。また、議論を見る限り、採択の票を投じた委員の方々に対して、教育現場で教科書を使う教員や保護者の方々の意見がとどいているのかも、疑問といわざるを得ません。

 今年、横浜市は港が開かれて150年を迎え、開国博でにぎわっています。世界に開かれた貿易の拠点横浜は、グローバルな視野でものを考えることを基本にして発展してきました。そのことを基本にして、子どもたちの教育をもう一度考え直すことが必要です。

 日本人の誇りを持てる教科書との声も聞きました。「誇り」とは、決して指を指されることのない、清廉潔白、正々堂々としてあやまることのない生き方にこそ生まれものです。過去の過ちを認めず、日本人は正しかったと言い張る姿のどこに、日本人の誇りが存在する余地があるのでしょうか。

 平和フォーラムは、真摯に過去と向き合う姿勢から豊かな将来が見えてくるものと信じています。そのためには、正しい歴史認識と史実に基づいた歴史を学ぶことが重要です。横浜市教育委員会は、全ての歴史教科書をもう一度検討し直し、子どもたちの将来のために教科書採択をやり直すことを強く要求します。


横浜市教育委員会の自由社教科書採択についての抗議声明

横浜市の教科書採択報告集会参加者一同 8・4横浜市教育員会傍聴者有志 2009年8月4日

 横浜市教育員会は本日(2009年8月4日)、平成22、23年度使用歴史教科書として、自由社の教科書を市内18採択地区中8地区で採択することを決定した。私たちはこの決定が極めて恣意的であり、市民だけでなく、国際的にも説明責任を果たすことなく行われたことに強く抗議する。


 自由社版歴史教科書は、登場以来、国内だけでなく海外政府からも繰り返し批判されてきた極めて問題のある扶桑社版教科書とそっくりな教科書である。この教科書は、古代史において伝承を史実と混同させるように扱い、日本の歴史を天皇中心のように描いている。また、近現代史においては、日本の植民地支配や侵略戦争を正当化・美化するいっぽう、日本の戦争の加害や被害についてはほとんど書いていない。戦争そのものを正当化し、日本国憲法を敵視する内容である。このような歪曲した歴史を子どもたちに刷り込むことによって、子どもたちを「戦争をする国」の忠実な国民に育てることをねらいとする教科書といわざるを得ない。


 また、自由社版教科書には、多くの間違いや国際常識に反する記述があることが指摘されている。2008年度の教科書検定において、文部科学省は扶桑社版と全く同じ記述をした自由社版に対して、少なくとも8か所の誤りを指摘し、修正させている。それでもなお間違いがあることが指摘されている他、生徒の実情を無視した本文や脚注の文字の小ささや、斜体、地色上の文字の読みにくさなど、自由社版は教科書としての基本的な条件を著しく欠いている。


 また、自由社版は現行の扶桑社版の内容を継承することを目的とし、内容もほとんど同じであるため、扶桑社は、「著作権者全員の了解を得なければ、この複製は、法律上、禁止されています。」などと警告を発してきており、提訴もあり得ると報道されている。

 教科書採択に当たっては、複製権などの諸権利を侵害する可能性のない公正な教科書を選ぶべきである。

 また自由社に対しては、「新しい歴史教科書をつくる会」・扶桑社とともに、公正取引委員会に独占禁止法第2条第9条項および第19条に基づく「申告(告発)」が提出されており、教科書採択の公正確保の面でも問題のある教科書である。

 全国一の都市規模を有し、国際的な港都でもある横浜市が、このような自由社版教科書の問題点を考慮することなく採択を決めたことに対しては、国内だけでなく、アジア近隣諸国からも厳しい批判を受けるであろう。

 われわれ採択審議傍聴者、傍聴報告集会参加者は、横浜市教育委員会が、開かれた採択に逆行する「無記名投票」を行い、不公平な選定手続きによって、自由社版歴史教科書を採択した暴挙に対し、怒りをもって抗議する。われわれは、横浜市教育委員会がただちにこの採択を撤回するとともに、あらためて十分な調査研究に基いて採択をやり直すよう要求する。

以上


【談話】横浜市教育委員会の自由社版歴史教科書採択に対して、断固として抗議し、採択の撤回、採択手続きのやり直しを要求する


俵 義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長) 2009年8月4日

 横浜市教育委員会は、本日8月4日、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)編集の自由社版歴史教科書を市内18採択地区中8地区(港南・旭・金沢・港北・緑・青葉・都築・瀬谷、145校中71校)に採択した。私たちはこの暴挙に怒りを込めて抗議し、採択の撤回・やり直しを要求する。


 自由社版歴史教科書は、極めて問題の多い扶桑社版教科書の「複写」教科書であり、ほとんど同じ内容の教科書である。したがって、自由社版は扶桑社版の問題点をそのまま引き継いでいる上、戦争の美化・正当化をいっそう色濃くしている。この教科書は、日本の歴史を天皇中心に描いている。また、日本の植民地支配や侵略戦争を正当化・美化し、日本の戦争の加害や被害をほとんど書いていない。戦争そのものを正当化し、日本国憲法を敵視し、平和や人権をないがしろにしている。歪曲した歴史を子どもたちに刷り込むことによって、子どもたちを「戦争をする国」の忠実な国民に育てることをねらいとするものである。


 こんな教科書を使うことになる約13,000人の横浜の中学生は、国際都市横浜の子どもとしてふさわしくない歴史、歪曲した間違った歴史を学ばされ、アジアを蔑視する歴史観を身につけることになりかねない。


 さらに自由社版教科書は、きわめて無責任でずさんな編集によってつくられたために、扶桑社版の間違いに加えて、新たな不適切な内容や誤字誤植がたくさある。しかも、文字が小さくルビなどはほとんど読めない、資料の図版などへの斜体文字の多様や色つきの紋様(地紋)の上から印刷するなど趣味的な編集のために読みづらく、教科書としての使用に堪えないものである。こうした内容以前の問題からみても、この教科書で学ばされることになる横浜の子どもたちの学習にとっては重大な問題だといえる。

 横浜市教育委員会は、こうした多くの誤りのある教科書を今後さらに2年間、子どもたちに使わせることを決定したわけである。


 加えて、「つくる会」は06年に分裂し、扶桑社版教科書の著作権をめぐって裁判で争うなどの醜い抗争をつづけている。子どもや教育そっちのけで争いを続けている無責任な団体が編集した教科書を採択したことは、子どもたちの教育を考えても重大な問題である。


 東京都・滋賀県・愛媛県・杉並区・大田原市の教育委員会が、2005年に扶桑社版教科書を採択したことに対して、当該地域はもとより日本各地の市民や諸団体、韓国をはじめアジアの人びとや団体から、多くの抗議や批判が寄せられてきた。さらに、今回の採択にあたっても、横浜市民・神奈川県民をはじめ全国各地から、さらにはアジアから、多くの人びとや団体が、扶桑社版・自由社版を採択しないことを求める要請を多数寄せていた。しかし、横浜市教育委員会はこうした声を完全に無視して、扶桑社版・自由社版の採択を強行した。


 今回の採択には不正の疑惑もある。今年3月頃から、横浜市教育委員会の今田忠彦委員長と藤岡信勝「つくる会」会長が何回も会い、今田氏が藤岡氏に自由社版教科書を採択するという内諾を与え、そのことを「市執行部や議会の一部幹部にも報告済み」「『つくる会』の限られた幹部も『今田さんと話が付いている』と話している」という内部情報があった。今回の採択を主導したと思われる今田委員長は、4年前にただ一人扶桑社版を絶賛し、扶桑社版の採択を強く主張していた。同じ「つくる会」教科書でも、扶桑社版ではなく自由社版を採択したというのは、この情報が事実であることを裏付けるものである。これが事実だとすれば、今回の採択は不公正であり、不正なものだといえる。何故なら、「つくる会」はこの教科書を編集しただけではなく、事実上の発行事業者であり、その責任者と事前に打ち合わせを行ったというのは、明らかな不正であり、不公正な採択だといえよう。


 この教科書を採択した教育委員はすべて、「つくる会」教科書を支持してきた中田宏横浜市長が任命した委員である。その意味では中田市長の責任も問われかねないといえる。


 横浜市の教育に責任を負う教育委員会が、子どもや教育のことを考慮しないで、政治的な判断のみで「つくる会」教科書を採択した“非教育的”で無責任な所業に対し、心からの怒りを禁じえない。私たちはこの暴挙に対し、断固として抗議するとともに、採択の撤回・やり直しを要求するものである。


横浜市の教科書採択地区単一化に反対する声明

教科書採択制度の民主化を求める神奈川の会 2009年6月23日

 横浜市教育委員会は、本日(2009年6月23日)の臨時会において、現在行政区ごとに設定されている市内18の教科書採択地区を、1地区に変更する要望案を了承しました。

 政令指定都市の教科書採択地区については、「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律(無償措置法)」第16条で「指定都市の区の区域又はその区域をあわせた地域に、採択地区を設定しなければならない」「指定都市の教育委員会は、(中略)前項の採択地区ごとに、(中略)種目ごとに1種の教科用図書を採択する」と定められています。

 また、政府の行政改革委員会の提言をうけて、「将来的には学校単位の採択の実現に向けて検討していく必要があるとの観点に立ち、当面の措置として、教科書研究により多くの教員の意向が反映されるよう、現行の採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善についての都道府県の取り組みを促す」(「規制緩和推進計画の再改定について」平成9年3月28日)との閣議決定がなされ、以後毎年この趣旨で閣議決定が行われています。

 横浜市教育委員会はこの決定およびそれに伴う文部科学省通知、神奈川教育委員会の指導に従い、2001年度に市内10採択地区を行政区ごとの18地区に小規模化しました。 今回の要望は、法律の趣旨や閣議決定に真っ向から逆行するものであり、適正な教育行政とはとうてい認められません。

 現在の18採択地区は、法的にも国の方針にもかなったものであり、子どもたちへのきめ細やかな教育環境を保障するものです。地区拡大の理由にあげられている項目は、いずれも各学校の工夫で十分対応できることであり、法の趣旨を無視してまで強行することとは言えません。

 なにより、小学校19万3千人、中学校7万6千人の子どもたちに一種の教材で対応し、全国一突出した巨大なマーケットを出現させて過当な営業競争を招くことは、市民として許し難いことです。全国の教育委員会への影響も大きいものと思われます。

 横浜市の教科書採択地区の単一化・拡大化に反対し、現行18採択地区を維持することを求めます。

以上

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